HOME / ゼロから学ぶ犯罪学 / 講座 / 第4章 社会学の理論(1)地域・緊張・学習 / 緊張理論

第4章 社会学の理論(1)地域・緊張・学習 ・ レッスン4-2

緊張理論。目標と手段のずれが生む圧力

約5分 ・ 公開日 2026-10-04

このレッスンの問い

みんなが「成功しなさい」と言うのに、そこへ続く道がふさがれていたら。人はどうすると思いますか?

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

前のレッスンの復習(1問)

本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。

レッスン4-1から

Q1. 前のレッスンの復習です。ショウとマッケイが、非行の原因は「住む人より地域にある」と考えた理由はどれでしょう?

答えを見る

正解: 2. 住民の出身が入れ替わっても、同じ地域で非行の多さが続いたから
どの出身の人々が住んでも、移行地帯では非行の多さが数十年変わりませんでした。そこで地域のつながりの弱さ(社会解体)に原因を求めたのです。

01目標と手段のずれが圧力になる

緊張理論とは、社会が目指せという目標と、それを手に入れる正当な手段がずれると、人に圧力がかかると考える理論です。

アメリカの社会学者マートンは、1938年の論文「社会構造とアノミー」でこの考えを示しました。犯罪の原因を、個人の生まれつきではなく社会のしくみに探したのです。

社会は、お金や成功という目標を強く求めます。けれども、教育や安定した仕事といった正当な手段は、すべての人に同じようには開かれていません。

目標ばかりが強調されると、手段のルールが軽く見られ、力を失っていきます。マートンは、こうして社会のまとまりが弱まった状態をアノミーと呼びました。

02人の対応は5つに分けられる

マートンは、目標と手段をそれぞれ受け入れるかどうかで、人の対応を5つに分けました。

目標も手段も受け入れるのが「同調」です。マートンは、どの社会でもこれがいちばん多いと述べました。

目標は受け入れ、正当な手段を手放すのが革新です。マートンが犯罪といちばん結びつけたのは、この対応でした。

目標をあきらめ、手段のルールだけを守り続けるのが「儀礼主義」です。目標も手段も手放す「逃避主義」はいちばん少なく、両方を新しいものに置きかえようとするのが「反抗」です。

成績を上げたい生徒なら、カンニングで点を取るのが革新です。点はあきらめ、提出物だけきちんと出すのは儀礼主義に当たります。これは性格の分類ではなく、同じ人でも場面によって対応は変わります。

03アグニューは緊張の源を広げた

アグニューは1992年、緊張の源を広げ、怒りなどのいやな感情が犯罪につながると考えました。

マートンが見たのは、おもに成功の目標に届かない緊張でした。アメリカの犯罪学者アグニューは、これに、大切なものを失うことと、虐待のようないやな扱いを受けることを加えました。

こうした緊張は、怒りや不満といった感情を生みます。その感情を犯罪で解消しようとすることがある、と考えたのが一般緊張理論です。

ただし、緊張を感じた人の多くは犯罪をしません。緊張理論は圧力が生まれるしくみの説明で、緊張があれば必ず犯罪になるとは言っていません。

対応目標(成功)正当な手段例
同調受け入れる受け入れる勉強や仕事で、まじめに成功を目指す
革新受け入れる手放す詐欺や盗みでお金を得る
儀礼主義手放す受け入れる出世はあきらめ、決まりだけを守る
逃避主義手放す手放す社会から身を引いてしまう
反抗新しいものに置きかえる新しいものに置きかえる社会のしくみそのものを変えようとする
マートンの5つの適応様式(1938年の論文の表をもとに作成)

あなたの場合は?

あなたが「手が届かない」と感じた目標を1つ思い浮かべてください。そのとき、5つの対応のどれに近かったでしょう?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 緊張理論は、目標と正当な手段のずれが人に圧力をかけると考える
  2. マートンの5つの対応。犯罪といちばん結びつくのは、目標は追うが手段を手放す「革新」
  3. アグニューは、失うことやいやな扱いも緊張の源とし、怒りが犯罪につながると考えた

TERMSこのレッスンの用語

緊張理論Strain theory

社会が求める目標と、それを手に入れる正当な手段とのずれが、人を犯罪へ向かわせる圧力になると考える理論。

アノミーAnomie

目標ばかりが強調されて手段のルールが力を失い、社会のまとまりが弱まった状態。

一般緊張理論General strain theory

目標に届かないことに加え、大切なものを失うことやいやな扱いを受けることも緊張とし、それが生む怒りなどの感情が犯罪につながると考える、アグニューの理論。

LESSON 4-2 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. マートンの5つの対応のうち、「目標は受け入れるが、正当な手段を手放す」ものはどれでしょう?

答えを見る

正解: 2. 革新
目標を追い続けたまま、正当でない手段を使うのが革新です。マートンが犯罪といちばん結びつけた対応でした。

Q2. アグニューの一般緊張理論の説明として正しいものはどれでしょう?

答えを見る

正解: 1. 緊張の源に、大切なものを失うことや、いやな扱いを受けることを加えた
アグニューは、目標に届かないこと以外にも緊張の源を広げました。緊張は怒りなどの感情を生みますが、必ず犯罪になるとは考えていません。

日常の場面で考える

Q3. 会社員のAさんは、もう昇進は無理だと出世をあきらめました。それでも、決められた手順だけは毎日細かく守り続けています。5つの対応のどれに近いでしょう?

答えを見る

正解: 3. 儀礼主義
惜しい選択肢もありますが、ここがポイントです。目標はあきらめ、手段のルールだけを守り続けるのが儀礼主義です。正当でない手段は使っていないので革新ではありません。

レッスン4-2はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第4章 社会学の理論(1)地域・緊張・学習 のレッスン一覧
  1. 4-1シカゴ学派と社会解体
  2. 4-2緊張理論
  3. 4-3分化的接触理論

講座の目次(全14章)へ

出典(2件)
  1. Merton R. K.「Social Structure and Anomie」American Sociological Review, Vol. 3, No. 5, 1938, pp. 672-682(ワシントン大学の講義資料として公開されたJSTOR版)
  2. Eitle D.「General Strain Theory, Persistence, and Desistance Among Young Adult Males」Journal of Criminal Justice, 2010(PubMed Central。Agnew 1992の3つの緊張の源を要約)