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第13章 犯罪予防と政策 ・ レッスン13-1

エビデンスにもとづく刑事政策。何が効くのか

約5分 ・ 公開日 2026-10-05

このレッスンの問い

非行をした少年に刑務所の厳しさを見せれば、怖くなって非行をやめる。この取り組みは効くと思いますか?

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

01「良さそう」ではなく、確かめてから選ぶ

犯罪対策は、思いつきや評判ではなく、比べて確かめた証拠で選ぶべきだという考え方があります。

友人が「このサプリを飲んでから風邪をひかない」と言ったとします。でも、飲まなくても同じだったかもしれませんよね。

犯罪対策も同じです。始めた後に犯罪が減っても、その取り組みのおかげとは限りません。比べて確かめた証拠をもとに対策を選ぶ考え方を、エビデンスにもとづく政策と呼びます。

米国では1996年、法律で司法長官に、犯罪予防事業の効果を独立に調べて議会へ報告するよう求めました。メリーランド大学のシャーマンらが、1997年に報告をまとめています。

02研究の確かさを5段階で測る

メリーランド報告は、500件を超える評価研究を、確かさに応じて1から5の段階に分けました。

研究によって、結論の確かさは違います。そこで報告は、研究の方法を5段階で採点しました。これを科学的方法の尺度(メリーランド尺度)と呼びます。

いちばん弱いのは、ある時点で取り組みと犯罪の関係を見るだけの研究です。いちばん強いのは、対象を無作為に分けて比べる研究です。

そのうえで、取り組みを「効く」「効かない」「有望」「不明」の4つに分けました。「効く」と言うには、段階3以上の研究が2件以上必要で、証拠全体も効果を示すことが条件でした。

03善意の取り組みが、逆効果だった例

少年に刑務所を見学させるスケアード・ストレートは、何もしないより非行を増やしていました。

非行をした少年や非行のおそれがある子どもに、刑務所を訪ねさせる。受刑者と話させ、怖さで非行を思いとどまらせる。こうした取り組みをスケアード・ストレートと呼びます。

1997年の報告は、これを「効かない」の一覧に入れました。ペトロシーノらの系統的レビュー(2013年)は、1967〜92年に米国8州で行われた無作為の比較研究9件を集めています。

そのうち7件をまとめると、参加した側のほうが、その後に非行をする見込み(オッズ)が約1.7倍高くなっていました。著者らは、何もしないより害が大きいと結論づけています。

なお、2020年の別のメタ分析では、非行を増やすとまでは言えず、効果なしという結果でした。どちらにしても、非行を減らす証拠はありません。

段階研究のやり方確かさ
1ある時点で、取り組みと犯罪の関係を見るいちばん弱い
2取り組みの前と後を比べる弱い
3取り組みをした所と、していない似た所を比べる中くらい
4した所としていない所を複数比べ、ほかの要因も考える強い
5対象を無作為に分けて比べるいちばん強い
メリーランド報告の「科学的方法の尺度」(1997年、5段階)

あなたの場合は?

あなたの身近で「良さそうだから」続いている取り組みはありますか?それは何と比べて確かめられているでしょう。

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 対策は評判ではなく、比べて確かめた証拠(エビデンス)で選ぶ
  2. メリーランド報告は研究の確かさを5段階で測り、無作為に分ける研究が最も強い
  3. 刑務所を見学させるスケアード・ストレートは、非行を減らさなかった

TERMSこのレッスンの用語

エビデンスにもとづく政策Evidence-based policy

比べて確かめた研究の証拠をもとに、対策を選ぶ考え方。

科学的方法の尺度(メリーランド尺度)Maryland Scientific Methods Scale

評価研究の確かさを1から5の段階で示す物差し。5は無作為に分けて比べる研究。

スケアード・ストレートScared Straight

少年に刑務所を訪ねさせ、怖さで非行を思いとどまらせようとする取り組み。

LESSON 13-1 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. メリーランド報告の「科学的方法の尺度」で、いちばん確かさが高い段階5の研究はどれでしょう?

答えを見る

正解: 1. 対象を無作為に分けて比べる研究
無作為に分けると、取り組み以外の違いが結果に混ざりにくくなります。だから段階5がいちばん強い証拠になります。

Q2. スケアード・ストレートの無作為の比較研究をまとめた2013年の系統的レビューの結論はどれでしょう?

答えを見る

正解: 2. 何もしないより、非行が増えていた
ここがポイントです。7件をまとめると、参加した側のほうが非行をする見込みが約1.7倍高く、著者らは何もしないより害が大きいと結論づけました。

日常の場面で考える

Q3. 万引きをした中学生向けに「刑務所の厳しさを語る講話を聞かせよう」という案が出ました。エビデンスにもとづく考え方で、最初にすべきことはどれでしょう?

答えを見る

正解: 3. 似た取り組みを比べて確かめた研究を調べ、効果と害を確かめる
惜しい選択肢もありますが、感想がよくても非行が減るとは限りません。怖さに訴える取り組みは逆効果の例もあるので、まず比べた研究を確かめます。

レッスン13-1はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第13章 犯罪予防と政策 のレッスン一覧
  1. 13-1エビデンスにもとづく刑事政策
  2. 13-2地域の防犯活動と見守り
  3. 13-3犯罪の国際比較

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出典(3件)
  1. Sherman L. W. ほか「Preventing Crime: What Works, What Doesn't, What's Promising」Research in Brief(米国司法省 国立司法研究所, 1998年7月。1997年の議会報告の要約)
  2. Petrosino A., Turpin-Petrosino C., Hollis-Peel M. E., Lavenberg J. G.「'Scared Straight' and other juvenile awareness programs for preventing juvenile delinquency」Cochrane Database of Systematic Reviews, 2013(Campbell Libraryにも掲載, PubMed Central)
  3. van der Put C. E. ほか「Effects of Awareness Programs on Juvenile Delinquency: A Three-Level Meta-Analysis」International Journal of Offender Therapy and Comparative Criminology, 2021(2020年オンライン公開, PubMed Central)