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第3章 生物学と心理学からの説明 ・ レッスン3-1

遺伝と環境。双生児と養子の研究からわかること

約5分 ・ 公開日 2026-10-04

このレッスンの問い

親子で犯罪をくり返す家族がいたら、その原因は遺伝と育ち、どちらが大きいと思いますか?

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

01双子と養子で、遺伝と環境を分ける

遺伝と環境の影響を分けて調べるために、双子と養子を比べる研究が使われます。

親子で犯罪が続くとき、それが遺伝のせいか育ちのせいかは、ふつうの家族を見てもわかりません。親子は遺伝子も家庭も共有しているからです。

そこで双子を比べます。一卵性の双子は遺伝子がほぼ同じで、二卵性は平均して半分ほどを共有します。一卵性のほうがよく似ていれば、そのぶん遺伝の影響があると考えます。

養子も手がかりになります。生みの親と育ての親のどちらに似るかを比べるのです。双子を比べる方法を双生児研究、養子を調べる方法を養子研究と呼びます。

02遺伝の影響はあるが、運命ではない

研究をまとめると、反社会的な行動の個人差の約4割が遺伝、約6割が環境で説明されます。

2002年、リーとウォルドマンは双生児と養子の研究51件をまとめて分析しました。反社会的な行動の個人差のうち、遺伝で説明される割合は合わせて約4割でした。

ここで大切なのが遺伝率の意味です。遺伝率は、集団の中の「違い」のうち遺伝で説明される割合です。ある人の行動の4割が遺伝で決まる、という意味ではありません。

身長で考えてみましょう。背の高さは親に似やすい一方、子どものころの栄養でも変わりますよね。遺伝の影響があることと、環境で変わらないことは別の話です。

03遺伝と環境はかけ合わさって働く

同じ経験をしても、遺伝子の型によって影響の受け方が変わることがあります。

2002年、カスピらはニュージーランドのダニーデンで生まれた子どもたちの追跡研究を使いました。注目したのは、MAOAという遺伝子の働きが弱い型と強い型です。

遺伝子の型だけでは、反社会的な行動との関係は見られませんでした。ところが3〜11歳に虐待を受けた男性では、働きが弱い型の人のほうが、のちに反社会的な行動が目立ちました。

環境の影響の強さが遺伝子の型で変わることを、遺伝と環境の相互作用と呼びます。「犯罪遺伝子」があるのではなく、経験との組み合わせで影響が変わるという考え方です。

ただし慎重さも必要です。精神医学で遺伝子と環境の組み合わせを調べた研究では、最初の報告の96%が肯定的だった一方、追試で確かめられたのは27%でした(2011年の見直し)。

MAOAについては、27件の研究をまとめた分析(2014年)が男性で同じ傾向を確かめましたが、女性でははっきりしませんでした。1つの遺伝子で、ある人の将来を言い当てることはできません。

方法比べるものわかること
双生児研究一卵性と二卵性の双子の似かた違いのうち遺伝で説明される割合
養子研究生みの親と育ての親への似かた遺伝と育った家庭、どちらの影響か
相互作用の研究遺伝子の型ごとの、経験の影響同じ経験の影響が人によって違うか
遺伝と環境を調べる3つの方法

あなたの場合は?

あなたが親やきょうだいと似ている点を1つ思い浮かべてください。それは遺伝と育った環境、どちらの影響が大きいと思いますか?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 双子と養子を比べると、遺伝と環境の影響を分けて調べられる
  2. 反社会的な行動の個人差は、約4割が遺伝・約6割が環境で説明される(51件のまとめ)
  3. 遺伝子の影響は経験との組み合わせで変わる。1つの遺伝子で将来は決まらない

TERMSこのレッスンの用語

双生児研究Twin study

一卵性と二卵性の双子の似かたを比べ、遺伝と環境の影響の大きさを調べる研究方法。

遺伝率Heritability

ある集団の中の個人差のうち、遺伝の違いで説明される割合。一人ひとりの何割が遺伝で決まるかを示すものではない。

遺伝と環境の相互作用Gene-environment interaction

同じ環境や経験でも、遺伝子の型によって影響の受け方が変わること。

LESSON 3-1 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. 一卵性の双子のほうが、二卵性の双子より行動がよく似ていました。どう考えるでしょう?

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正解: 1. そのぶん遺伝の影響があると考える
一卵性は遺伝子がほぼ同じ、二卵性は平均して半分ほどを共有します。一卵性のほうが似ているぶんを、遺伝の影響と考えるのがこの方法のポイントです。

Q2. 「反社会的な行動の遺伝率は約4割」とは、どういう意味でしょう?

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正解: 2. 集団の中の行動の違いのうち、約4割が遺伝で説明される
惜しい読み方をしやすいところです。遺伝率は集団の中の「違い」についての割合で、ある人の行動の何割が遺伝で決まるかを示すものではありません。

日常の場面で考える

Q3. ニュースで「暴力に関わる遺伝子が見つかった。この型の人は危ない」と紹介されました。このレッスンからいえることはどれでしょう?

答えを見る

正解: 3. 影響は経験との組み合わせで変わり、追試で確かめられないことも多い。型だけで人は判断できない
ここがポイントです。MAOAの研究でも、型だけでは行動との関係は見られず、虐待の経験と組み合わさったときに差が出ました。最初の報告が追試で確かめられないことも多いので、型だけで人を判断することはできません。

レッスン3-1はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第3章 生物学と心理学からの説明 のレッスン一覧
  1. 3-1遺伝と環境
  2. 3-2衝動性と自己統制
  3. 3-3精神障害と犯罪

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出典(4件)
  1. Rhee S. H., Waldman I. D.「Genetic and Environmental Influences on Antisocial Behavior: A Meta-Analysis of Twin and Adoption Studies」Psychological Bulletin, 128(3), 490-529, 2002(APA)
  2. Caspi A. ほか「Role of Genotype in the Cycle of Violence in Maltreated Children」Science, 297, 851-854, 2002(オタゴ大学ダニーデン研究)
  3. Byrd A. L., Manuck S. B.「MAOA, childhood maltreatment and antisocial behavior: Meta-analysis of a gene-environment interaction」Biological Psychiatry, 2014(PubMed Central)
  4. Duncan L. E., Keller M. C.「A Critical Review of the First 10 Years of Candidate Gene-by-Environment Interaction Research in Psychiatry」American Journal of Psychiatry, 2011(PubMed Central)