HOME / ゼロから学ぶ犯罪学 / 講座 / 第5章 社会学の理論(2)絆とレッテル / 社会的絆理論

第5章 社会学の理論(2)絆とレッテル ・ レッスン5-1

社会的絆理論。人はなぜ罪を犯さないのか

約5分 ・ 公開日 2026-10-04

このレッスンの問い

盗めばすぐ手に入る物があっても、多くの人は盗みません。あなたを止めているものは何だと思いますか?

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

01問いを逆にする「なぜしないのか」

社会的絆理論は、人が罪を犯さないのは社会との絆があるからだと考える理論です。

欲しい物を盗むのは、働いて買うより早くて楽です。それでも、多くの人は盗みません。では、何が人を止めているのでしょうか。

アメリカの犯罪学者ハーシは、1969年の本『非行の原因』でこの問いを立てました。「なぜするのか」ではなく、「なぜしないのか」を問うたのです。

ハーシの答えは、家族や学校など社会との絆が人を引き止めている、というものです。絆が弱まったり切れたりすると、非行が起きやすくなります。この考え方を社会的絆理論と呼びます。

引き止めるのは、警察や刑罰だけではありません。大切な人の信頼を失うことへの心配が、とくに大きな役割を果たすと考えました。

02人を引き止める4つの絆

ハーシは絆を、愛着・投資・巻き込み・信念の4つに分けました。

愛着は、親や先生、友だちとの心のつながりです。大切な人にどう思われるかを気にするほど、裏切る行動はとりにくくなります。

投資は、勉強や仕事で積み上げてきたものや将来の目標です。失いたくないものがある人ほど、それを危うくする行動を避けます。

巻き込みは、ふつうの活動で時間がふさがっていることです。信念は、ルールは守るべきだと信じる気持ちです。4つの絆は互いにつながっていて、1つが強い人はほかも強い傾向があります。

たとえば、受験を控えた高校生が、友だちに誘われた万引きを断る場面を考えてみましょう。「親を悲しませたくない」は愛着、「推薦を失いたくない」は投資の働きです。

03データで確かめると

ハーシ自身の調査では、愛着・投資・信念は支持され、巻き込みだけは支持されませんでした。

ハーシは理論を示すだけでなく、自分で確かめました。1964年、カリフォルニア州リッチモンド周辺の中学・高校11校で、生徒4077人を調べたのです。分析の多くは、そのうち白人の男子についてのものでした。

自分の行動を親が知っていると感じる子や、親とよく話す子ほど、非行は少ない結果でした。進学の希望や、警察を尊重する気持ちも、非行の少なさと結びついていました。

意外にも、スポーツや趣味に使う時間は、非行と関係がありませんでした。ハーシは、非行の多くは短い時間でできてしまうからだと説明しています。ただし、宿題に時間を使う子は非行が少ない傾向でした。

その後も数多く検証され、絆が弱いほど犯罪が多いという関係は確かめられています。ただし、関係の強さは弱いものから中程度までです。薬物を使う親への愛着は、子の薬物使用を防がなかったという研究もあります。

絆意味例ハーシの調査では
愛着親・先生・友だちとの心のつながり親をがっかりさせたくない支持された
投資勉強や仕事で積み上げたもの・将来の目標推薦や内定を失いたくない支持された
巻き込みふつうの活動で時間がふさがっていること部活が忙しく、暇がない支持されなかった(宿題の時間は例外)
信念ルールは守るべきだと信じる気持ち法の抜け道を使うのはずるいと思う支持された
ハーシ『非行の原因』(1969)の4つの絆と、1964年の調査の結果

あなたの場合は?

あなたが小さなルール違反をしないでいる理由を思い浮かべてください。それは4つの絆のどれにあたりますか?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 社会的絆理論は「人はなぜ罪を犯さないのか」を問い、答えを社会との絆に求めた
  2. 絆は4つ。愛着・投資・巻き込み・信念(ハーシ『非行の原因』1969年)
  3. 調査では愛着・投資・信念は支持され、巻き込み(忙しさ)は支持されなかった

TERMSこのレッスンの用語

社会的絆理論Social bond theory

人が罪を犯さないのは社会との絆があるからで、絆が弱まると非行が起きやすくなると考える理論。ハーシが1969年に示した。

愛着Attachment

社会的絆の1つ。親・先生・友だちなど身近な人との心のつながり。

投資(コミットメント)Commitment

社会的絆の1つ。勉強や仕事で積み上げてきたものや将来の目標。失いたくないものがあるほど、非行をしにくくなる。

LESSON 5-1 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. ハーシが社会的絆理論で立てた問いはどれでしょう?

答えを見る

正解: 2. 人はなぜ罪を犯さないのか
ここがポイントです。ハーシは「なぜするのか」ではなく「なぜしないのか」と問いを逆にし、その答えを社会との絆に求めました。

Q2. ハーシの1964年の調査で、非行と関係が見られなかったものはどれでしょう?

答えを見る

正解: 3. スポーツや趣味に使う時間
スポーツや趣味の時間は、非行と関係がありませんでした。非行の多くは短い時間でできてしまうためです。親との会話(愛着)や進学の希望(投資)は、非行の少なさと結びついていました。

日常の場面で考える

Q3. 昇進が決まったばかりの会社員が、経費の水増しを持ちかけられて断りました。「せっかくの昇進と信用を失いたくない」という気持ちは、4つの絆のどれにあたるでしょう?

答えを見る

正解: 2. 投資
惜しい選択肢もありますが、ここがポイントです。これまで積み上げてきた地位や信用を失いたくない気持ちは、投資の働きです。大人にもあてはまる絆です。

レッスン5-1はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第5章 社会学の理論(2)絆とレッテル のレッスン一覧
  1. 5-1社会的絆理論
  2. 5-2子育てと自己統制
  3. 5-3ラベリング理論

講座の目次(全14章)へ

出典(2件)
  1. Barbara J. Costello「Hirschi, Travis: Social Control Theory」F. T. Cullen, P. Wilcox 編『Encyclopedia of Criminological Theory』SAGE, 2010, pp.452-459(SAGE公開PDF)
  2. Sean Ashley「8.5 Social Control Theory」S. Hassan, D. Lett 編『Introduction to Criminology』Kwantlen Polytechnic University, 2023(CC BY 4.0の大学公開教科書)