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第8章 被害者学 ・ レッスン8-1

被害者学とは何か。被害者を研究する意味

約5分 ・ 公開日 2026-10-04

このレッスンの問い

犯罪を研究するのに、なぜ「被害を受けた人」の側も調べる必要があるのでしょうか?

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

被害に遭ったときの相談先

この講座は学習用で、個別の相談の代わりにはなりません。被害に遭ったときは、一人で抱え込まずに公的な相談窓口を利用できます。いま危険が迫っているときは110番に通報してください。

出典: 警察庁「支援一覧」、法テラス「お電話でのお問合せ(法テラス・サポートダイヤル)」

01被害に遭う人の側から犯罪を見る

被害者学は、犯罪の被害に遭う人の側から、被害の状況や影響、支えを研究する分野です。

これまでの章の理論は、おもに「なぜ人は罪を犯すのか」を問うものでした。けれども犯罪には、必ず被害を受ける人がいます。その人の側から犯罪を見るのが被害者学です。

出発点とされるのは2人の研究者です。フォン・ヘンティッヒは1948年の本『犯罪者とその被害者』で、加害者と被害者のかかわりに目を向けました。

メンデルソーンは1947年に「被害者学」という言葉を使い始め、1956年の論文で新しい学問として打ち出しました。今では「被害者学の父」と呼ばれています。

02「被害者の落ち度」を探す見方は批判された

初期の研究には被害者の責任の重さを測ろうとするものがあり、被害者を責める見方につながると批判されてきました。

メンデルソーンは、被害者を「まったく責任がない」から「完全に責任がある」までの段階に分けました。のちに、被害者の行動が犯罪のきっかけになったとみる「被害者による誘発」という考え方も広まりました。

これには強い批判が向けられました。ある性暴力の研究は、加害者側の受け止め方をもとに被害者の行動を評価していました。研究者たちは、性暴力をめぐる誤った思い込みで加害を正当化していると指摘しました。

被害者に責任を負わせるこうした見方を、被害者非難と呼びます。犯罪の責任は、罪を犯した側にあります。状況を調べるのは予防に生かすためで、被害者を責めるためではありません。

03被害は心と暮らしに長く残る

犯罪の被害は、体のけがだけでなく、心の健康や仕事・家族の関係にも長く影響します。

警察庁は2018年1月、被害に遭った人と遭っていない人に、インターネットで同じ質問をしました。過去30日に精神的な問題や悩みを感じた人は、被害者で41.0%、遭っていない人で23.5%でした。

体の問題を感じた人の割合には、大きな差はありませんでした。一方、この1年に仕事や日常生活ができなかった日は、被害者が平均26.2日で、約3.5倍でした。

被害のあと、仕事や学校を休んだり、家族の間で不和が起きたりした人は、遭っていない人より多く見られました。こうした影響を明らかにし、回復の支えにつなげることも、被害者学の大切な役割です。

項目被害に遭った人遭っていない人
過去30日に精神的な問題や悩みを感じた41.0%23.5%
うつや不安が重い可能性がある(K6という質問票で13点以上)18.5%9.1%
過去30日に体の問題を感じた29.9%25.8%
この1年に仕事や日常生活ができなかった日(平均)26.2日7.5日
被害に遭った人と遭っていない人の比較(警察庁「平成29年度犯罪被害類型別調査」、2018年1月のインターネット調査)

あなたの場合は?

身近な人が「被害に遭った」と打ち明けてくれたら、あなたは最初にどんな言葉をかけますか?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 被害者学は、被害に遭う人の側から犯罪を研究する分野
  2. 出発点はフォン・ヘンティッヒ(1948年の本)とメンデルソーン
  3. 「被害者の落ち度」探しは批判された。犯罪の責任は罪を犯した側にある

TERMSこのレッスンの用語

被害者学Victimology

犯罪の被害に遭う人の側から、被害の状況や影響、被害者への支援を研究する分野。

被害者による誘発Victim precipitation

被害者の行動が犯罪のきっかけになったとみる考え方。被害者を責める見方につながると批判されてきた。

被害者非難Victim blaming

犯罪の責任の一部または全部を、加害者ではなく被害者に負わせる見方。

LESSON 8-1 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. フォン・ヘンティッヒが1948年の本『犯罪者とその被害者』で目を向けたのは、何でしょう?

答えを見る

正解: 1. 加害者と被害者のかかわり
フォン・ヘンティッヒは、加害者だけでなく被害者とのかかわりに目を向けました。ここが被害者学の出発点の1つです。

Q2. 警察庁の2018年の調査でわかったこととして、正しいものはどれでしょう?

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正解: 2. 精神的な問題や悩みを感じた人の割合が、遭っていない人の約2倍だった
精神的な問題や悩みを感じた人は、被害者で41.0%、遭っていない人で23.5%でした。体の問題の割合には大きな差がなく、心への影響が目立ちました。

日常の場面で考える

Q3. 同僚が「昨日の夜、ひったくりに遭った」と話してくれました。被害者学の考え方に沿った受け止め方はどれでしょう?

答えを見る

正解: 2. 「大変だったね。けがはない?」と気づかい、責めずに話を聞く
ここがポイントです。犯罪の責任は罪を犯した側にあります。行動を注意すると、悪気がなくても責める言葉として届きます。軽く流すのも、被害の重さを小さく扱うことになりかねません。

レッスン8-1はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第8章 被害者学 のレッスン一覧
  1. 8-1被害者学とは
  2. 8-2反復被害
  3. 8-3日本の被害者支援

講座の目次(全14章)へ

出典(3件)
  1. Dussich J. P. J.「Victimology – Past, Present and Future」国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)Resource Material Series No.70
  2. Renzetti C. M., Edleson J. L. 編「Victim Precipitation Theories」Encyclopedia of Interpersonal Violence(SAGE)
  3. 警察庁「平成29年度 犯罪被害類型別調査 調査結果報告書」(2018年3月)