HOME / ゼロから学ぶ犯罪学 / 講座 / 第7章 発達・ライフコース犯罪学 / 犯罪からの離脱
第7章 発達・ライフコース犯罪学 ・ レッスン7-3犯罪からの離脱(デジスタンス)。人はなぜ犯罪をやめるのか
約5分 ・ 公開日 2026-10-04
このレッスンの問い
非行を重ねた少年でも、大人になって犯罪をやめていく人がいます。何がやめるきっかけになると思いますか?
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. 前のレッスンの復習です。モフィットの理論で、10代になってから非行が始まり、大人になるにつれて減っていく多数の人の道すじを何と呼んだでしょう?
答えを見る
正解: 2. 青年期限定型
青年期限定型でした。体と社会での扱いのずれ(成熟のギャップ)が原因と考えられ、大人の役割を得ると減っていくとされます。
01やめるのは「一度の決心」ではなく過程
犯罪からの離脱は、ある日の決心ではなく、犯罪をしない生活が長く続いていく過程です。
「禁煙なんて簡単、毎週やっているよ」という古い冗談があります。やめると決めることと、やめ続けることは別ものですよね。犯罪をやめるのも同じです。
犯罪学者のマルナは、犯罪を繰り返してきた人が長く犯罪から遠ざかることを離脱と考えました。1回の出来事ではなく、誘惑や困難の中で続いていく過程です。これをデジスタンスと呼びます。
02結婚や仕事が転機になる
サンプソンとラウブは、結婚や仕事などの転機で生まれる人との絆が、犯罪をやめさせると考えました。
出発点は、グリュック夫妻の古い調査です。1940年代のボストンで、非行のある少年500人と、非行のない少年500人を比べました。年齢・知能・貧しい地域の出身などをそろえた2つの組です。
その記録はハーバード大学の図書館の地下に眠っていて、1987年にラウブが見つけました。二人は記録を整理し直し、非行少年だった500人の犯罪記録と死亡記録を調べました。70歳前後になった52人には、直接話も聞いています。
二人の答えは、大人になってからの人との結びつきが犯罪を抑える、というものです。結婚・仕事・兵役などが転機となり、人生の道すじを変えることがあります。この考え方を年齢段階的インフォーマル社会統制理論と呼びます。
大切なのは結婚という出来事より、絆の強さです。同じ人でも、結婚している時期は、していない時期より犯罪のオッズが平均約35%低いという分析があります(2006年)。
インタビューでは、妻が飲み仲間との付き合いを変えてくれた話も出てきました。過去と切り離される、見守られる、毎日の過ごし方が決まる。転機にはこうした働きがあると二人は考えました。
03自分の物語を書き換える
マルナは、犯罪をやめていく人が「本当の自分は善い人間だ」という物語で人生を語り直していることを見つけました。
マルナは2001年の本『Making Good』で、イギリスのリバプールで聞いた人生の語りを分析しました。犯罪を続けている20人と、やめつつある30人です。育ちや犯罪歴など、2つの組の境遇はよく似ていました。
続けている人の語りは「自分はどうせこうなる運命だ」というものでした。失うものはなく、未来を自分で動かせる感覚もありません。マルナはこれを断罪の物語と呼びました。
やめつつある人は、罪は薬物や周りの人のせいで、本当の自分は善い人間だと語りました。未来に希望を持ち、経験を生かして社会にお返しをしたいとも語ります。これを贖罪(しょくざい)の物語と呼びます。
サンプソンとラウブが「外からの変化」を見たなら、マルナは「内からの変化」に光を当てたといえます。マルナは、こうした語りが行動を形づくる助けになると考えました。
| 続けている人(断罪の物語) | やめつつある人(贖罪の物語) | |
|---|---|---|
| 過去の犯罪 | 貧しさや仲間のせいで、こうなる運命だった | 薬物や周りのせい。本当の自分は善い |
| これから | どうせ変わらない。失うものもない | 自分で変えられる。希望がある |
| 望むこと | 一度に大金を手に入れたい | 経験を生かして社会にお返しをしたい |
あなたの場合は?
あなたがやめられた習慣を1つ思い出してください。きっかけは生活の変化でしたか、それとも自分の見方の変化でしたか?
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 離脱(デジスタンス)は一度の決心ではなく、犯罪をしない生活が続いていく過程
- サンプソンとラウブ:結婚・仕事・兵役などの転機で生まれる絆が、犯罪をやめさせる
- マルナ:やめていく人は「本当の自分は善い」と語る贖罪の物語を持つ
TERMSこのレッスンの用語
家族・学校・結婚・仕事など、年齢に応じた人との絆が犯罪を抑えると考える理論。サンプソンとラウブが1993年に示した。
結婚・就職・兵役など、人生の道すじを変えるきっかけになる出来事。
本当の自分は善い人間だと考え、経験を生かして社会にお返しをしたいと語る、犯罪をやめていく人の自己物語。マルナが示した。
LESSON 7-3 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. サンプソンとラウブが分析したのは、どのようなデータでしょう?
答えを見る
正解: 1. グリュック夫妻がボストンで集めた、非行のある少年500人とない少年500人の記録
グリュック夫妻の記録を1987年にラウブが見つけ、二人で整理し直しました。さらに70歳前後になった52人にも話を聞いています。
Q2. マルナの研究で、犯罪をやめつつある人の語りに見られた特徴はどれでしょう?
答えを見る
正解: 2. 本当の自分は善い人間で、経験を生かして社会にお返しをしたいと語る
ここがポイントです。1つ目と3つ目は、犯罪を続けている人の「断罪の物語」の特徴でした。
Q3. 何度も問題を起こしてきた知人が結婚しました。サンプソンとラウブの考え方にいちばん近い見方はどれでしょう?
答えを見る
正解: 3. 結婚という出来事より、家族との絆がどれだけ強いかが大切
惜しい選択肢もありますが、二人が重視したのは出来事そのものより絆の強さです。また、転機で道すじが変わることもあると考えたので、2つ目とも違います。
出典(4件)
- Sweeten G.「Sampson, Robert J., and John H. Laub: Age-Graded Theory of Informal Social Control」Encyclopedia of Criminological Theory, SAGE, 2010
- Sundt J. L.「Maruna, Shadd: Redemption Scripts and Desistance」Encyclopedia of Criminological Theory, SAGE, 2010
- Sampson R. J., Laub J. H., Wimer C.「Does Marriage Reduce Crime? A Counterfactual Approach to Within-Individual Causal Effects」Criminology 44(3), 2006
- Coe C.「Twigs Bent, Trees Go Straight」Harvard Magazine, 2004年3-4月号