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第6章 環境犯罪学と状況的犯罪予防 ・ レッスン6-4割れ窓理論。小さな乱れと犯罪の関係はどこまで確かか
約5分 ・ 公開日 2026-10-04
このレッスンの問い
落書きだらけの場所と、きれいな場所。人が規則を破りやすいのはどちらだと思いますか?
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. 前のレッスンの復習です。ニューマンが観察した公営住宅で、いちばんきれいに保たれていたのはどこでしょう?
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正解: 3. 2家族だけで使う階段の踊り場
使う人が少なく「自分たちの場所」と感じやすい踊り場ほど、きれいに保たれていました。これが「守りやすい空間」の出発点です。
01割れ窓理論とは何か
割れ窓理論とは、小さな乱れを放っておくと地域の見守りが弱まり、重い犯罪を招くという考え方です。
1982年、ウィルソンとケリングが雑誌『アトランティック・マンスリー』に発表しました。修理されない割れ窓は「誰も気にしていない」という合図になり、ほかの窓も割られていく、というたとえです。
落書きやごみ、路上での酒盛りが続くと、住民は不安になって外に出なくなります。住民どうしの目が届かなくなると、犯罪をしようとする人が集まりやすくなる、という筋道です。
この考えは、軽い違反も見逃さない取り締まりの根拠として広まりました。厳しい取り締まりで秩序を保つこの方針を、ゼロ・トレランスと呼ぶことがあります。ただし元の論文は、警察と住民が一緒に乱れを直すことも重んじていました。
02実験でわかったこと
ほかの人の規則やぶりの跡を見ると、別の規則も破りやすくなることが、オランダの野外実験で示されました。
2008年、オランダのフローニンゲン大学のカイザーらは、街で6つの実験を行い、科学誌『サイエンス』に発表しました。その1つでは、5ユーロ札が透けて見える封筒を郵便受けからはみ出させ、通行人が持ち去るかを見ました。
郵便受けがきれいなとき、持ち去ったのは13%でした。郵便受けに落書きがあると27%、周りにごみが散らかっていると25%に増えました。
ただし、調べたのはポイ捨てや封筒の持ち去りのような軽い違反です。小さな乱れが重い犯罪まで増やすかどうかは、研究の結果が分かれていて、まだはっきりしていません。
03取り締まりで犯罪は減ったのか
乱れへの対策は犯罪を控えめに減らしますが、効いたのは地域と協力する型で、強硬な一斉取り締まりの効果ははっきりしません。
ニューヨークでは1990年代、軽い違反の取り締まりを強めた時期に暴力犯罪が大きく減りました。ただ同じ時期に、警察の組織改革や、薬物クラックの流行の終わりも重なっています。取り締まりを強めなかった他の大都市とも、殺人の減り方に大きな差はなかったという分析もあり、この理論だけでは説明できません。
多くの研究の結果をまとめて計算する方法を、メタ分析と呼びます。ブラガらは質の高い研究28件(30の検証)をメタ分析し、2015年に論文、2019年に系統的レビューとして発表しました。全体では、犯罪は統計的にはっきり、ただし控えめに減っていました。
減っていたのは、住民と協力して空き家やごみなどの問題を直す型でした。軽い違反を厳しく一斉に取り締まる型では、犯罪の減少ははっきり見られませんでした。2024年の更新版(59の検証)でも、同じ傾向でした。
| 主張・やり方 | 研究の結果 | 確かさ |
|---|---|---|
| 乱れを見ると、別の規則も破りやすくなる | 落書きで封筒の持ち去りが13%から27%に(カイザーら、2008年) | 軽い違反では実験で確認 |
| 小さな乱れが重い犯罪を招く | 調査研究の結果が分かれている | まだはっきりしない |
| ニューヨークの犯罪減少は取り締まりのおかげ | 組織改革や薬物流行の終わりと重なる | この理論だけでは説明できない |
| 住民と協力して乱れを直す | 犯罪が控えめに減る(ブラガら) | 効果あり |
| 軽い違反を一斉に強硬に取り締まる | 犯罪の減少がはっきりしない(ブラガら) | 効果ははっきりしない |
あなたの場合は?
通勤や通学の道で、ごみや落書きが放っておかれた場所を通るとき、あなたや周りの人のふるまいは変わると思いますか?
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 割れ窓理論は、小さな乱れの放置が重い犯罪を招くという考え(1982年)
- 実験では、落書きやごみがあると軽い規則やぶりが増えた(13%から27%)
- 効いたのは住民と協力して乱れを直す型。強硬な一斉取り締まりの効果ははっきりしない
TERMSこのレッスンの用語
割れた窓のような小さな乱れを放っておくと、地域の見守りが弱まり、重い犯罪を招くと考える理論。
軽い違反も見逃さず、厳しい取り締まりで秩序を保とうとする警察の方針。
同じ問いを調べた多くの研究の結果を集め、まとめて計算する方法。
LESSON 6-4 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. カイザーらの実験で、郵便受けに落書きがあると、封筒を持ち去る人の割合はどうなったでしょう?
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正解: 2. 13%から27%に増えた
きれいなときは13%、落書きがあると27%でした。落書きという別の規則やぶりの跡が、盗みまで起こりやすくしたのです。
Q2. ブラガらのメタ分析で、犯罪の減少がはっきり見られたのはどの型でしょう?
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正解: 1. 住民と協力して、空き家やごみなどの問題を直す型
効果が見られたのは、住民と協力して問題を直す型でした。強硬な一斉取り締まりでは、犯罪の減少ははっきりしませんでした。
Q3. ある商店街が、落書きと放置自転車に悩んでいます。研究の結果から、いちばん勧められそうな進め方はどれでしょう?
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正解: 2. 店・住民・市や警察が話し合い、問題の場所を一緒に直していく
惜しい選択肢もありますが、ここがポイントです。乱れは放置すると規則やぶりを広げます。一方、強硬な一斉取り締まりの効果ははっきりしません。地域で協力して直す型が、研究でいちばん支持されています。
出典(4件)
- Braga A. A., Welsh B. C., Schnell C.「Disorder policing to reduce crime: A systematic review」Campbell Systematic Reviews, 2019(PubMed Central)
- Keizer K., Lindenberg S., Steg L.「The Spreading of Disorder」Science 322(5908), 1681-1685, 2008(フローニンゲン大学)
- Harvard Gazette「Policing for and with the community」2012(ハーバード大学。ウィルソンとケリングの1982年の論文の紹介)
- Braga A. A., Schnell C., Welsh B. C.「Disorder policing to reduce crime: An updated systematic review and meta-analysis」Criminology & Public Policy, 2024(著者の研究室による紹介)