HOME / ゼロから学ぶ犯罪学 / 講座 / 第6章 環境犯罪学と状況的犯罪予防 / 防犯環境設計
第6章 環境犯罪学と状況的犯罪予防 ・ レッスン6-3防犯環境設計。見通しと人の目で守る
約5分 ・ 公開日 2026-10-04
このレッスンの問い
同じ団地の中でも、荒れる場所ときれいに保たれる場所があります。何が違いを生むと思いますか?
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. 前のレッスンの復習です。状況的犯罪予防で、2003年の整理で新しく加わった5つめの方向はどれでしょう?
答えを見る
正解: 1. 挑発を減らす
コーニッシュとクラークは、それまでの16の技法に「挑発を減らす」を加え、25の技法に整理しました。いら立ちや争いのきっかけを減らす方向です。
01場所の造りで犯罪を防ぐ
防犯環境設計とは、建物や道の造り方を工夫して、犯罪を起こしにくくする考え方です。
これまでの章では「なぜその人が罪を犯すのか」を見てきました。この考え方は問いを変え、「どんな場所なら犯罪が起きにくいか」を考えます。英語の頭文字からCPTED(セプテッド)とも呼ばれます。
この言葉を書名にしたのは、犯罪学者のジェフリーです。1971年の著書で、犯罪者本人だけでなく、その人が暮らし行き来する環境に目を向けるよう呼びかけました。
翌1972年には、建築家のニューマンが『守りやすい空間』を出版しました。住民が自分の家のまわりを見守り、管理できる造りにすれば犯罪は減らせる、という考えです。
02住む人が同じでも、造りで差が出た
ニューマンは、住む人が同じような人たちでも、建物の造りによって荒れ方が大きく違うことに気づきました。
きっかけは、アメリカのセントルイスにあった11階建ての公営住宅、プルーイット・アイゴーです。2,740戸の大きな団地でしたが、廊下やロビー、エレベーターは危険な場所になりました。
ところが、2家族だけで使う階段の踊り場は、きれいに保たれていました。20家族で使う廊下や、150家族で使うロビーは荒れ果てていたのです。
通りの向かいの小さな古い団地は、同じような人たちが住んでいたのに、問題なく暮らせていました。ニューマンは、自分たちの場所だと感じられるかが分かれ目だと考えました。
034つの原則と、日本の指針
防犯環境設計では、自然監視・接近の制御・領域性・維持管理の4つの原則がよく挙げられます。
表のように、見通し、入りにくさ、自分たちの場所という意識、手入れの4つです。手入れの行き届いた場所は、よく見られ、守られている場所だと受け取られます。
たとえば、マンションの植え込みが低く刈られ、ゴミ置き場が片付いている。これは見た目のためだけでなく、防犯の考え方にもかなっています。
日本では、警察庁が2000年に「安全・安心まちづくり推進要綱」を定めました。2001年には国土交通省が、警察庁と連携して「防犯に配慮した共同住宅の設計指針」をまとめています。
この指針の基本原則も4つです。監視性の確保、領域性の強化、接近の制御に加え、壊されにくい部材や設備を使う「被害対象の強化・回避」が入っています。
| 原則 | ねらい | 例 | 日本の指針では |
|---|---|---|---|
| 自然監視 | 周りの人の目が自然に届く | 窓の向き、明るい照明、低い植え込み | 監視性の確保 |
| 接近の制御 | 関係のない人が入りにくい | 出入口をしぼる、門や柵、生け垣 | 接近の制御 |
| 領域性 | 「自分たちの場所」だと示す | 敷地の境目を舗装や植栽で示す | 領域性の強化 |
| 維持管理 | 手入れされている印象を保つ | 清掃や修理を続ける | 基本原則には無い(代わりに被害対象の強化・回避) |
あなたの場合は?
あなたが毎日通る道で、「見通しが悪い」と感じる場所はどこですか?そこに足りないのは、4つの原則のどれでしょう?
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 防犯環境設計(CPTED)は、場所の造りを工夫して犯罪を起こしにくくする考え方
- ニューマン(1972):自分たちの場所と感じられる空間は守られやすい
- 4つの原則は、自然監視・接近の制御・領域性・維持管理
TERMSこのレッスンの用語
建物・道路・公園などの造りを工夫して、犯罪を起こりにくくする考え方。
住民が自分の家のまわりを見守り、管理できるように造られた空間。ニューマンが1972年に唱えた。
窓の配置や照明、見通しのよさによって、周りの人の目が自然に届くようにすること。
LESSON 6-3 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. ニューマンが「守りやすい空間」の考えを得たきっかけとして、正しいものはどれでしょう?
答えを見る
正解: 1. 大勢で共用するロビーや廊下ほど荒れていた公営住宅の観察
セントルイスの公営住宅で、2家族で使う踊り場はきれいなのに、150家族で使うロビーは荒れていたことが出発点でした。
Q2. 2001年にまとめられた日本の「防犯に配慮した共同住宅の設計指針」で、基本原則に入っていないものはどれでしょう?
答えを見る
正解: 3. 維持管理
ここがポイントです。日本の指針の4つ目は、維持管理ではなく「被害対象の強化・回避」でした。壊されにくい部材や設備を使うことです。
Q3. マンションの駐輪場で自転車の盗難が続いています。防犯環境設計の「自然監視」にあたる対策はどれでしょう?
答えを見る
正解: 2. 周りの窓や道から見える位置に移し、照明を明るくする
惜しい選択肢もありますが、自然監視は人の目が自然に届くようにすることです。高い塀は入りにくくする一方で、見通しを悪くしてしまいます。
出典(4件)
- 国土交通省住宅局「『共同住宅の防犯上の留意事項』及び『防犯に配慮した共同住宅の設計指針』の策定について」広報資料(2001年3月23日)
- Newman O.「Creating Defensible Space」U.S. Department of Housing and Urban Development, 1996(ASU Center for Problem-Oriented Policing 掲載版)
- Crowe T. D., Zahm D. L.「Crime Prevention through Environmental Design」Land Development, 1994(ASU Center for Problem-Oriented Policing 掲載版)
- Colorado Division of Criminal Justice「In Detail: Crime Prevention Through Environmental Design (CPTED)」2024年5月