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第6章 環境犯罪学と状況的犯罪予防 ・ レッスン6-2

合理的選択と状況的犯罪予防。犯罪を割に合わなくする

約5分 ・ 公開日 2026-10-04

このレッスンの問い

自転車の鍵を2つにしても、泥棒は別の自転車を盗むだけ。あなたはそう思いますか?

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

前のレッスンの復習(1問)

本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。

レッスン6-1から

Q1. 前のレッスンの復習です。日常活動理論では、3つの条件のうち1つが欠けると、どうなると考えたでしょう?

答えを見る

正解: 1. ふつう犯罪は起きない
動機のある人・ふさわしい標的・有能な監視者の不在のうち、1つが欠けるだけで、ふつう犯罪は防がれると考えました。

01犯罪も「割に合うか」で選ばれる

合理的選択の視点では、犯罪も、その場で得と損を見比べて選ばれる行動だと考えます。

1985〜86年、コーニッシュとクラークは、犯罪をする人もその場で得と損を見比べて決めていると考えました。これを合理的選択の視点と呼びます。

ただし、電卓で計算するような完ぺきな判断ではありません。限られた時間と情報の中で、大まかに決める「限られた合理性」です。

もう1つの前提は、犯罪をする人を特別な人と見ないことです。状況しだいで、誰にでも犯罪をする可能性があると考えます。

025つの方向で、犯罪を割に合わなくする

状況的犯罪予防は、手間・リスク・利益・挑発・言い訳の5つの方向で、犯罪を起こりにくくする方法です。

人を変えるのではなく、犯罪が起きる場面を変える。これがクラークの状況的犯罪予防です。対象は「泥棒全般」ではなく、ねらわれる物や場所ごとに細かく絞ります。

2003年、コーニッシュとクラークは方法を25の技法に整理しました。それまでの16の技法に、「挑発を減らす」という5つめの方向が加わりました。

身近な例で考えてみましょう。夜中に食べてしまうお菓子を、高い棚の奥にしまう。手間を少し増やすだけで、つい手が伸びる回数は減りますよね。

03防いでも、よそへ移るだけ?

対策をしても犯罪が別の場所や手口に移るだけ、ということは、必ず起きるわけではありません。

ある場所で防いでも、犯罪は別の場所や時間、手口に移るだけではないか。この心配を犯罪の転移と呼び、状況的犯罪予防への代表的な批判でした。

2009年、ゲレットとバウワーズは状況的な予防の評価研究102件を調べました。574の観察のうち、転移が見られたのは26%でした。全体の効果を測れた13件では、転移が起きても対策の効果より小さい傾向でした。

反対に、対策をしていない周りでも犯罪が減る「利益の拡散」は27%で見られました。80台のうち5台のバスにカメラを付けたら、全車両でいたずらが減った例もあります。

方向ねらい技法の例
手間を増やす犯行を難しくするハンドルロック、入口のカード認証
リスクを増やす見つかりやすくする運転手の身分証の掲示、夜は複数で出歩く
利益を減らす盗んでも得にならなくする持ち物への名前や番号の記入
挑発を減らすいら立ちや争いのきっかけを減らす行列をさばきやすくする、混雑を減らす
言い訳をなくす「知らなかった」を言わせない「駐車禁止」の表示、「万引きは犯罪です」の掲示
状況的犯罪予防の5つの方向と、技法の例(コーニッシュとクラークの25の技法から)

あなたの場合は?

あなたの自転車や家の玄関は、5つの方向のうち、どれとどれで守られているでしょう?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 合理的選択の視点:犯罪も、その場で得と損を大まかに見比べて選ばれる
  2. 状況的犯罪予防の5つの方向:手間・リスク・利益・挑発・言い訳
  3. 転移は必ずは起きない。102件で転移26%、周りでも減る利益の拡散27%

TERMSこのレッスンの用語

合理的選択の視点Rational choice perspective

犯罪をする人も、限られた時間と情報の中で得と損を見比べて行動を選ぶ、と考える見方。

犯罪の転移Crime displacement

対策によって、犯罪が別の場所・時間・標的・手口・種類に移ること。

利益の拡散Diffusion of benefits

対策の効果が、対象にしていない場所や物、時間にまで広がること。

LESSON 6-2 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. 状況的犯罪予防の5つの方向に入らないものはどれでしょう?

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正解: 2. 刑罰を重くする
ここがポイントです。状況的犯罪予防は、犯罪が起きる場面を変える方法です。刑罰を重くすることは、5つの方向に入っていません。

Q2. ゲレットとバウワーズの2009年のレビューの結果として、正しいものはどれでしょう?

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正解: 2. 転移が見られたのは約4分の1で、周りでも犯罪が減る例も同じくらいあった
574の観察のうち、転移は26%、利益の拡散は27%でした。転移はゼロではありませんが、必ず起きるわけでもありません。

日常の場面で考える

Q3. 職場の共用冷蔵庫で、他人の飲み物が勝手に飲まれます。状況的犯罪予防の考え方にいちばん近いのはどれでしょう?

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正解: 1. 名前を書くシールを置き、「人の物は飲まないでください」と貼る
惜しい選択肢もありますが、ここがポイントです。名前を書くと「知らなかった」が言えなくなり、貼り紙は言い訳をなくします。場面そのものを変えているのです。

レッスン6-2はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第6章 環境犯罪学と状況的犯罪予防 のレッスン一覧
  1. 6-1日常活動理論
  2. 6-2状況的犯罪予防
  3. 6-3防犯環境設計
  4. 6-4割れ窓理論
  5. 6-5ホットスポット

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出典(4件)
  1. Ronald V. Clarke「Introduction」Situational Crime Prevention: Successful Case Studies, 2nd ed.(1997、Problem-Oriented Policing Center, アリゾナ州立大学)
  2. Derek B. Cornish, Ronald V. Clarke「Opportunities, Precipitators and Criminal Decisions: A Reply to Wortley's Critique of Situational Crime Prevention」Crime Prevention Studies, vol. 16, pp.41-96(2003)
  3. Problem-Oriented Policing Center「Twenty Five Techniques of Situational Prevention」(アリゾナ州立大学)
  4. Rob T. Guerette, Kate J. Bowers「Assessing the Extent of Crime Displacement and Diffusion of Benefits: A Review of Situational Crime Prevention Evaluations」Criminology, 47(4), 1331-1368(2009)